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小説ですよ
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昔、空は遠かった。
 
一人で見る空は遠く、淋しくて、涙が溢れそうになった。
空が赤くなると一日が終るのだと思った。
一人で帰る道のりは、とても長く感じられたのを今でも覚えてる。
あの頃、自分は一人で居る事が多かった。
別に友達がいなかった訳じゃない。
ただ、親しい友人がいなかっただけ。
それだけ。
 
…ただの強がりだとは解ってる。
何をしてもダメな自分は馬鹿にされる事が多かったから、特別に親しい友達はいなかった。
だから一人で居る事も少なくなかった。別に虐められてる訳じゃない。
ただ、空虚な淋しさだけがあった。
それだけ。
 
いつしか、淋しさは諦めに変わり、一人で居る事にも慣れてしまった。
久し振りに見上げた空は、何も感じられなかった。
ただ、遠い。それだけ。
 
 
今は…
 
 
 
 
「おーい!ツナー!どうしたー?」
 
遠くで自分を呼ぶ友人の声に、綱吉は振り返った。
見上げてた空は今日も快晴で、雲が気持ちよさそうに泳いでいる。
足元で風がグラウンドの砂を僅かに撫でた。
秋の近付く9月の風は微かに冷たく、暑い日差しの中で、それはとても気持ちが良かった。
 
「ううんー!何でもないー!!」
 
友人の声に答えながら、駆け足で後を追う。
学校からの帰り道、今日も空は晴れだった。
校門で先に待つ友人二人を追い掛けて、綱吉は駆けた。
今日は半休だ。日差しがまだ高い。
いつもより早く帰れた嬉しさに、思わず目を細めて空を見上げた。
 
その時、唐突に思い出した。
 
胸に仄かな冷たい風を呼び覚ました、過去の憧憬。
あの時、見上げた空は遠かった。
赤い空を、いつも一人で見ながら歩いて帰ってた。
 
今は…
 
 
「ツナ?」
 
山本の声が、隣で伺うように降ってきて慌てた。
反対側から心配気な眼差しで、獄寺が「気分でも優れませんか?」と訊いてくる。
それが何故か、改めて嬉しかった。 一人じゃない。
今、自分には本当に親しい友達が居る。
 
「ごめん、何でもないんだ。 今日は何処、行くんだっけ?」
 
すぐさま獄寺が今日の予定を話し出す。
今日はCD屋に立ち寄った後、皆でゲーセンに行く事になっている。
ゲーム好きな綱吉としては、帰りがけに友人達と寄るゲーセンが楽しみの一つでもあった。
昔の自分だったら、信じられなかったかも知れない。
今、自分の周りには色んな出会いを経て得た、沢山の友人が居る。
 
マフィアのボスなんて、今でも冗談じゃないと思うけれど…リボーンが来てから色んな出来事があった。
辛い事も沢山あったけれど、何だかんだ言って自分の周りには今まで得られなかった大切なものが沢山ある。
面倒事を避けてた筈なのに、不覚にもそれが幸せだと思えた。
色々な無理難題も、乗り越える事によって絆が深まるようで。
動く事で得たものの大きさは計り知れない。
 
そして、頭上の空は昔とは比べ物にならないほど、近くにある。
 
死ぬ気の炎が、自分と空とを近付けた。
飛んでいる間、天も地も空に溶けたような錯覚に眩暈がする。
 
空は近かった。
 
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